現在、新生児の病気などを出生前に診断することは、一部では可能になっています。例えば、ダウン症かについては、妊婦に採血をし、胎児の染色体異常の可能性を調べる検査として既に一般化されており、日本においては日本医学会の認定を受けた認定施設、あるいはそうでない認定外施設で検査を受けることが可能です。つまり、そういった「選別」は既に行われています。
それはある種当然でもあります。例えば、経済力や胎児に一定以上の時間を割くことの出来ない事情があれば、通常よりも遥かに手間のかかる障害児は望まれないでしょうし、強制的に生ませたとしても、両親と子供共に不幸になる未来は想像に難くありません。
しかし、その選別はどこまでが許されているでしょうか? 例えば、東京大学に入学する見込みの大小は、IQによってある種規定することができます。当然、IQが低いよりも入学は容易いでしょう(低いIQの人に東大が門戸を開いていない、というわけでは決してありません)。あくまで可能性の問題ですが、東大至上主義の両親は、当然高いIQの子を望み、低いIQの子は望まないでしょう。そうすると、彼らにとっては低いIQの子は望ましくないわけです。
そうした未来がややもすると現実化しようとしています。科学はこれまで不可能であった選択を可能にするのです。
ゲノミック・プレディクション社の最高科学責任者であるNathan Treffと、ミシガン州立大学の研究担当副学長である物理学者のStephen Hsu、Danish bioinformatician CEOのLaurent Tellierは、IQの遺伝的基盤について研究を重ねてきました。その研究の中で、成果として既に、DNAデータから3〜4センチメートル以内までの人々の身長を予測することに成功しています。同社の予測モデルは、国家的な医療プロジェクトであるUK Biobankによって獲得された50万人の中年英国人のデータなどに依存し、その中には当然遺伝子の読み取りと医療記録が含まれているため、その精度は十分以上の効果を発揮するでしょう。
また、ある種の「胚」を選択することで、最終的な身長、体重、肌の色、も選択できるようになりました。そして、その予測の中には知能さえも含まれます。予測できるようになりました。Stephen Hsu曰く、「知能用の胚」を選択すると、結果として生じる子供のIQが15ポイント向上する可能性があると主張しています。
現在は、そういった選択は疾患の選別あるいは報告に留まっています。それは倫理的な側面での枷であることは明白であり、その箍が外れればたちまち知能の選別も起きるはずです。なぜなら、誰しも自分の子供が「愚か」よりも「賢い」方を望むからです。
また、知能に直結する疾患については最も見解が分かれるところです。既にアルツハイマー病についての胚の検査は認められつつある状況ですが、それも知能の選別と言えるでしょう。社会は、胚の性別の選択についてより曖昧になっており、現時点では医師の裁量に大きく依存しています。医学的理由で検査が正当化される限り、あらゆる種類の測定を留めることは難しいでしょう。
一方で、まだ収集したデータは、知能に関しては完全とは言えません。前述Biobankのデータでは、IQの代替たりうる学校教育の達成度について、DNAではほぼ予測できなかったとしています。しかし別の研究では、既に大規模な母数の場合は「家庭の貧富」と同程度には将来的な学歴を予測できるとしています。要すれば、今一つ結論が出ていないのが現状です。
しかし、将来的に高精度で予測が実現することは間違いありません。それがどのように使われるか、それが合法違法いずれに属するかについては、今後の倫理観の決定に大きく依存するでしょう。
【参考】
1. 「Eugenics 2.0: We’re at the Dawn of Choosing Embryos by Health, Height, and More」
(https://www.technologyreview.com/2017/11/01/105176/eugenics-20-were-at-the-dawn-of-choosing-embryos-by-health-height-and-more/)
2. 「ダウン症(21トリソミー)とは?」
(https://niptjapan.com/column/%E3%83%80%E3%82%A6%E3%83%B3%E7%97%87%EF%BC%8821%E3%83%88%E3%83%AA%E3%82%BD%E3%83%9F%E3%83%BC%EF%BC%89%E3%81%A8%E3%81%AF%EF%BC%9F/)