「IQが20違うと会話が成立しない」という言葉は真実か

表題の「IQが20違うと会話が成立しない」という言葉はよく聞きます。実際のところ、まずもって「そんなわけはない」ですね。当然そのような妄言に科学的な根拠はありません。そもそも、そのIQとは標準偏差がいくつなのか、全検査IQなのか、言語性IQなのか、ウェスクラー式で測定したのか、あるいは田中ビネー式で測定したのか……などなど。前提となるところがすっぽり抜け落ちています。

実際、IQが20違ったとしても会話は成立します。例えば、子どもが標準的なIQの持ち主でも、大人の標準と比較するとIQが20以上低い場合はままあります。IQは年齢によって傾斜をかけて算出しているので、子どものIQ100と大人のIQ100は全く異なるのです。しかし、小学校の先生は授業を教えることが出来ています。それは、会話が成立しているからです。まさか小学校の先生のIQが全て小学並み、ということはありませんよね?

また、IQは一般に70を下回ると知的障害と認定される場合があります。すると、IQが90の人とIQが70の人が会話をすると、会話が成立しなくなることがあるかもしれません。知的障碍者の方の中には、会話がままならない方もいらっしゃいます。おそらくIQが高い方は経験則あるいは知識を活用して会話を成立させようとしますが、IQが(知的障害の範囲でなく)低い人は、そのような努力を怠るかもしれません。その場合は、会話は成立しないでしょう。しかしこれは珍しいケースでしょう。

では何故多くの人が「IQが20違うと会話が成立しない」という意見を支持するのでしょうか? 無論多くと言っても、何も全人類の8割と言っているわけではなく、数%程度はそう思っている人がいるのではないか、ということです。

おそらく、それは「会話」の定義が異なっているからではないかと考察できます。大辞林曰く、会話とは「二人または数人が、互いに話したり聞いたりして、共通の話を進めること」とあります。これが会話の定義です。翻って、上記の説を支持している人の意見をインターネットから抜粋します。

  • IQが20以上離れていると会話が成立せず、近いほど笑いが絶えない会話になる
  • IQはその年齢(層)の平均的な知能を100とした時のものなので、家族、年上、年下と話が合わないのは当たり前
  • それが顕著かつ頻繁に起こる場が、大学の医学部と看護学部の合コン
  • その人との出会いの種類によっても色々変わって来るのでは?
  • 抽象度が高い話や長期視点の話においてIQ差があると噛み合わなくなる

お分かりでしょうか。「IQが20違うと会話が成立しない」という意見の持ち主の方は、「会話」という言葉の定義を間違えているのです。彼ら彼女らは、「IQに差があると、知的探求心や好奇心その他にも差が発生して、お互いの興味関心の差が発生してしまうため、結果として会話が弾まなくなる」ことを「会話が出来なくなる」と表現しているのです。

なるほど確かに、個々人の知的な水準の差によって会話が弾むか弾まないか、ということはあるかもしれません。しかしそれは「会話が出来なくなる」という状態では決してなく、またその知的な水準をIQだけに求めるのも間違っていますね。会話が弾まない原因の一つにはIQはあるかもしれませんが、知識量や感性などIQに関与が薄い他の要因も多分にあるでしょう。そこをIQだけに求めてしまうというのは、あまり賞賛される行動とは言えないでしょう。

なお、(自分はIQが高いと自任しており、なんとかして弾まない会話を弾ませたいと思っている人が)実施すべき対策は3つあります。

1. 会話が弾むようなグループ内だけで会話する(それが同水準のIQの集団である場合もある)

2. 知識量や前提条件、論理展開などをIQが高い側が丁寧に伝えることにより、IQが低い側も理解し、返答が出来るようにする(果たしてIQが高い側からして、会話が弾んでいるのかどうかは疑問)

3. IQが高い側は、低い側が豊富な知識量を誇る領域のみを会話の対象とする。それがIQの高い側が持たない知識であればあるほど会話は弾む

【参考】

1. 「「IQが20離れていると会話が成立せず、近いほど笑いが絶えない会話になる」という話に様々な意見が集まる 「めちゃくちゃ腑に落ちた」「全然そんなことない」」(https://togetter.com/li/1171636)