以前メンタリストのDaigo氏が、生活保護の受給者やホームレスを否定する持論を展開した事例がありました。その後過去の言動などがピックアップされ、その中には「差別発言ってね実は頭が悪い証拠なんですよ。IQが低い人ほど、差別的な発言するよってことがわかってて」というコメントもありました。なお、同氏のIQは当人曰く「弟がIQ132だったって言ってて、俺より10以上低いなって返した」とあり、自称にはなりますがIQ140以上と高いIQを持っていることが分かります。また、一般入試で慶応義塾大学理工学部に合格ていることも考慮すると、少なくとも平均よりは高いIQを持っていると推測してよいでしょう。
実は、同氏の言うところの「IQが低い人ほど、差別的な発言をする」というのは（同氏が特段そうというわけではなく）、傾向として既に明らかになっています。
カナダオンタリオ州ブロック大学所属の、心理学の主任研究員であるGordon Hodson氏が行った調査ではそのことが証明されています。同氏の調査は、1958年3月および1970年4月に生まれた子どもに対し、10～11歳時点での知能指数を計測した上で、30歳あるいは33歳時点でどれだけ「保守的な思想」や「偏見」を持っているかを測定するというものです。その中で有効だった調査内容は、「母親がフルタイムで働いていると、家族が苦しむ」「学校は、子どもたちに権威に従うよう教育すべきだ」「他の人種と一緒に働いても構わない」などの質問に答えさせるもので、集計した結果、小児期の低い知性（すなわちIQ）は成人期の人種差別の度合いに対応していたことが明らかになりました。
そして上記の相関を説明するものとして、研究者は「社会的保守主義」というイデオロギーこそが脳（＝IQの低さ）と偏見を結び付けるものだと考察しています。実際、「認知能力の低い人は、他の人種の人との接触も少なかった」として、同氏は「この発見は、（人種などを含む）グループ間の接触が偏見を減らすという発見と一致している。認知能力の低い人は他の人種との接触が（それが精神的負担などを伴うため）少ない」と結論づけています。そして、「社会的に保守的なイデオロギーは構造と秩序を提供する傾向がある」とも続けて主張し、それが「偏見へと繋がる」と結んでいます。
また、別の研究ではIQが高い人はリベラルな思考になることが示唆されています。イギリスのロンドン・スクール・オブ・エコノミクス（LSE）の進化心理学者のSatoshi Kanazawa氏は「10代時点のIQが高い方が、将来リベラルになる傾向」が見られることを、研究成果の一つとして発表しています。同氏の研究は、アメリカの13歳から19歳までの青少年を継続的に調査しIQと宗教観・政治思想の関連を調べたものです。なお、同氏はその理由として「頭の良い人の脳が新しい状況にうまく適応しようとする結果生じるものだ」と考察しています。
そんなわけで、研究によって徐々にどのような思想の持ち主がどの程度の知能指数を持っているかが徐々に明らかになっている状況です。なお、あくまで「傾向」ですのでIQが低くともリベラル的な思想の持主は当然いますし、逆に高いIQでもガチガチの保守主義の人も珍しくありません。なので、単純なグルーピングは理解し易く飛びつきたくなりますが、それは危険な行動と言えるでしょう。
そこから導き出されるのは、DaiGo氏に対して「ブーメラン現象」と評した人は、「差別主義者はIQが低い傾向がある」という研究成果を「差別主義者はIQが低い」という事実と誤認し、しかもIQが低いことを悪として扱っていることが分かります。「IQが低い＝悪いこと」という式は、この多様性が叫ばれる昨今非常に保守的なものに思えます。そのことを理解せずに「ブーメラン」と叫ぶ人こそが……明言は避けましょう。
【参考】
1. 「Why Liberals and Atheists Are More Intelligent」(https://personal.lse.ac.uk/kanazawa/pdfs/SPQ2010.pdf)
2. 「Low IQ & Conservative Beliefs Linked to Prejudice」(https://www.livescience.com/18132-intelligence-social-conservatism-racism.html)
3. 「ＤａｉＧｏ「ＩＱが低い人ほど差別的な発言をする」 過去発言でブーメラン現象」(https://news.yahoo.co.jp/articles/5cb49605ffa6085e775314cf4d8fe6a75bba8209)
