一般的なイメージとして、フィクションでは田舎(あるいは離島等)の子は身体能力に優れるが、知力に劣るというものがあります。野生児扱いされるが、勉強はイマイチ……というステレオタイプなイメージですね。
実は、少なくとも一昔前まではそれは事実でした。
「講座心理学9 知能」(肥田野直編、東京大学出版会、1970年発刊)によれば、僻地の人間のIQは都会の人間のそれよりかなり劣る、というデータが示されています。
- イギリスで1923年に船上で生活する76人の子供の知能を対象とした研究では、平均IQは69.6であり、うち4–6歳では平均IQは90、12–22歳では平均IQは60であった。成長とともに知能の伸びが低くなっていた
- 1932年のアメリカワシントンD.C.西部のブルーリッジ山脈に住む子供を対象に知能検査をした結果では、山麓にある村の子供のIQは76–118であった一方で、山間部の子供のIQは60–84であり、かつ上記と同様に年齢が高いほどIQが低くなっていた
- 広島大学による1965年の研究では、瀬戸内海の人口7千人の島の小学生152人に対して知能検査を実施したところ、男子の平均IQは92、女子の平均IQは80であった
上記の研究結果を端的にまとめると、「僻地に住んでいる人はIQが低くなる傾向にある」と言えるでしょう。極端な例で言えば、例えば山に捨てられて狼に育てられた場合、どんなに優秀な遺伝子を持っていたとしても当然IQは低くなります。それほど極端ではありませんが、なにかしらIQが上がりにくい環境に染まるとIQが低くなる傾向がある、と結論づけることはそれほど誤ってはいないでしょう。
一方で、何故僻地ではIQが低くなってしまうのでしょうか。
そもそも、IQが高いようなふるまいを要求されなければIQは高くなりません。IQが高いふるまいというのは、脳に少なからず負担がかかるものです。例えば、延々に漁船で魚を採り、捌くという作業のみが強いられていては、その作業は阿吽の呼吸で熟練したとしても、IQの成長に繋がる生活とは言えないでしょう(これは、上記の研究結果の「知能の伸びが悪くなる」という点では妥当な解釈と思われます)。また、そうして育った周りの大人のIQが低い場合は、当然子供もIQの高さは求められませんし、またIQが高いが故に疎まれることすらあるでしょう。
つまるところ、そこに生まれついた段階で「勝手にIQが低くなる、ないし上げることが出来ない」環境に染まってしまったが故に、そこから抜け出すのは至難の業であり、またそもそも抜け出そうとは思わなくなるのかもしれません。
なお、現代社会では「ギフテッド」と呼ばれる先天的にIQやその他の能力が高い児童が同じ目にあっているとされています。周りの先生や子供は、そのような能力に長けた子供を(特に勉強などの点で長けた子供を)疎ましく思う傾向にあります。そして、その傾向は残念ながら僻地であれば僻地であるほど強いと言えるでしょう。
【参考】
1. 「講座心理学9 知能」
(肥田野直編、東京大学出版会、1970年発刊)