発達障害は「IQが低い人」ではないし、得意不得意の差が激しい人でもない

発達障害と聞くと、知的障害の一種かと勘違いしてしまいますが実は全く異なります。日本では「発達障害者支援法」に基づいて、以下のように定義されています。

「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの」

また、厚生労働省は他の障害との関係として以下の図を示しています。

上記の図を解釈すると、発達障害というのは簡単に言えば「学習障害かもADHDかも自閉症かもアスペルガーかも知的障害かもしれないが、そうでないかもしれない」というものになります。要すれば、冒頭に述べたところに立ち戻ると、発達障害=知的障害では決してないわけです。

なお、一般にIQで知的障害を区分するならば、以下の分類になります(IQ以外にも、生活能力も診断の要素には含めますが、ここでは割愛します)

  • IQが35以下:重度精神遅滞
  • IQが35~50:中度精神遅滞
  • IQが50~70:軽度精神遅滞
  • IQが70~85:境界領域知能(知的障害とは言わない)

一方で、発達障害の場合は上記のような「IQがいくつだから発達障害」というような指針は存在しません。巷では、「ディスクレパンシーの大きさよって規定される」というような診断をしている医師や、あるいはそのような情報を流布しているインターネットサイトもあるようですが、少なくとも諸手を挙げてその差が発達障害の所以、とは言えなません。なお、ディスクレパンシーとはIQ検査(知能テスト)において測定できる「言語性IQ」と「動作性IQ」の差分を指す用語です。例えば、IQ120の人でも言語性IQが140、動作性IQが100と能力に凹凸がある場合も存在します。

確かに、ディスクレパンシーの大きさは巷で言う「生きづらさ」に繋がっているかもしれませんが、だからと言って何らかの障害と規定されるわけではないのです。実際、発達障害の専門家は以下のように言及しています。

「(前略)いわゆるディスクレパンシーは発達障害の指標とされがちであるが,ディスクレパンシーの大きさは必ずしも発達障害の診断を示唆するものではない。ディスクレパンシーをもたらす要因は発達障害以外にも多数ある。発達障害に精神科的併存障害や生育歴上の逆境的体験が加わると,ディスクレパンシーは一層顕著になることがある。ディスクレパンシーの要因を安易に発達障害のみに帰属させず,より広く検討することによりクライエントが抱える複雑な困難さが見えてくることがある(後略)」

(糸井 岳史 臨床に活かすウェクスラー式知能検査─成人の発達障害を中心に─より)

実際に、ディスクレパンシーが小さい場合でも、現場では発達障害の診断を実施しています。例として、発達協会王子クリニックでは「5歳時、「著しい多動と易興奮性、集団行動がとれない」を主訴に来院。WISCⅢでは言語性IQ106動作性IQ114全IQ111、多動性、易興奮性とともに共感性の乏しさ、こだわりも目立ち、高機能広汎性発達障害と診断、定期療育指導を受けることになった。」というものを挙げている。

要すれば、IQのみによって発達障害は規定されないので、IQの大小やその凸凹に発達障害性を求めてはいけない、ということです。決して、「発達障害の人は、偏りやアンバランス性があって神秘的な存在!」みたいな曲解をしないように……。

【参考】

1. 「公益社団法人発達協会HP」(http://www.hattatsu.or.jp/index.html)
2. 「文部科学省HP」(https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/hattatu.htm)
3. 「厚生労働省HP」(https://www.mhlw.go.jp/seisaku/17.html)
4. 「臨床に活かすウェクスラー式知能検査─成人の発達障害を中心に(糸井岳史)(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscap/58/4/58_514/_pdf/-char/ja)