IQが高い人の寿命が長いのは、「世襲」的な社会の構造がその要因

日本では激務の職場の評価として、「30代で家が建ち、40代で墓が建つ」ということわざめいたものがあります。そのような評価を受ける職場は、商社あるいはそれに準ずる超一流企業です。そして、そこに働く従業員は高いIQを持っていることが多く、そうすると高いIQの人は早死にするのでは? という考え方もできます。別の例で言えば、官僚や大手広告代理店の社員が自殺するニュースなんかも良く聞きますね。

しかし実際のところ、IQが高い人は長命な傾向にあるようです。「The association of early IQ and education with mortality: 65 year longitudinal study in Malmö, Sweden」という研究では、以下の結果によりIQが高い人は長命という事実を突きつけています。

  • スウェーデン・ストックホルム大学健康資産研究センターのA Lager氏らは、10歳時のIQが入手できたスウェーデン人1,530例を75歳まで追跡した
  • 結果、男女とも高等教育に進んだ人ほど死亡リスクが低く、更に男性の場合は子どもの頃のIQが高いほど死亡リスクが低かった(女性の場合は相関が薄かった)
  • Lager氏は「子どもの頃のIQでは(死亡率を)説明できない」と述べた一方で、社会的・身体的環境要因がIQと死亡率とを結び付けていると結論づけている

要すれば、「確かに(男性の場合)子供の頃IQと死亡率は逆相関を示すが、それはIQが高いからではなく、IQが高い人は良い環境で生活できているから」と言っています。でもそれは、「IQが高いと良いもの良い寝床高いQOLが獲得できるので長生きできる」ということの裏返しですよね?

別の研究もそれを裏付けています。「Childhood intelligence in relation to major causes of death in 68 year follow-up: prospective population study」という研究では、以下の事実が明らかになっています。

  • 1936年にスコットランドで生まれた少年3万3,536人と少女3万2,229人の11歳時の知能検査成績とその後68年間の死亡原因をリンクし、解析を実施
  • 結果、子ども時代のIQスコアが高いほど、冠動脈性心疾患、脳卒中、がん、呼吸器疾患、消化器疾患などの死亡率が低いと結論を得た
  • 詳細には、IQが高かった人は呼吸器疾患の死亡リスクが28%、冠状動脈性心疾患は25%、脳卒中は24%と顕著にリスクが低く、更にけが19%、喫煙関連のがん18%、消化器疾患18%、認知症16%とそれぞれ死亡リスクがやや低くなった。また、自殺は13%、喫煙に関連しないがん4%の死亡リスク低下が見られた。
  • なお、全体的に女性の方が男性より、わずかにIQの高さによる影響が大きい
  • 同研究チームは、IQの良し悪しがの寿命への影響を、

1. 「IQの高さは学業成績の高さと結びついており、そして学業成績がいいと、その後の社会的地位や生活環境の向上が保障される」

2. 「IQの高い人は教育水準が高く健康知識が豊富であり、また職場環境がよいため喫煙する人が少なく、アルコールを飲む量が少ない」

3. 「特に英国では、労働者階級の子どもは高等教育を受けず、男性は鉱業や造船業などの喫煙率が高い工事現場、女性はクリーニング工場など化学物質の多い工場で働くケースが多く、有害な毒性物質が労働者の呼吸器官に悪影響を与える」

これも要すれば、「子供時代IQが高い人は健康な生活を送れる。だからIQが高い人は長寿な傾向」ということです。二つの研究から考察して身も蓋もない結論を出すと「親が子供に十分な教育を施せるほどゆとりがある生活をしているなら、子供のIQは高くなり、そしてその子供は高いIQを活かして良い職場に就職し、健康的な生活を送る。そしてその子供には十分な教育を施して……」という、つまりは「世襲」ですね。厳しい結論ですが。

【参考】

1. 「The association of early IQ and education with mortality: 65 year longitudinal study in Malmö, Sweden」(https://www.bmj.com/content/339/bmj.b5282)
2. 「Childhood intelligence in relation to major causes of death in 68 year follow-up: prospective population study」(https://www.bmj.com/content/357/bmj.j2708)