もし自殺をすると「あの人はIQが低かった」を噂されるかもしれない

ドラマやフィクションでは、自殺をするのは「追い詰められた知能犯」や「恥辱に耐えかねた若い女性」と相場が決まっています。なぜなら、その方がフィクション映えするからですね。少し経路は違いますが、例えば押井守作品の「機動警察パトレイバー the Movie」では帆場暎一というシリーズ随一の天才(悪役)が自殺をして物語の幕が上がります。もっと分かりやすく言えば、船越英一郎は犯人を崖に追い詰めます。

しかし、もしもあなたが現実で自殺しても、「賢い人が自殺した」とは思われないかもしれません。なぜなら、現実では自殺をする傾向が強いのは「IQが低い人」という研究成果が複数あるからです。

「Psychosis alters association between IQ and future risk of attempted suicide: cohort study of 1 109 475 Swedish men」という研究では、以下のような結果が明らかになっています。

  • 1950年から1976年生まれのスウェーデン出身男性110万人について、16歳から25歳(平均18歳)の徴兵検査時の知能テストの結果とその後の人生における自殺未遂による入院歴を平均追跡期間24年間で調査
  • 結果、男性のIQが下がるにつれ、自殺未遂の発生率が段階的に上昇することを発見。具体的には、IQが最も高い群では200人に1人、IQが最も低い群では22人に1人、被験者全体では60人に1人が自殺未遂の状況

更に、「Low intelligence linked to suicide risk later in life」という別の研究でも同様の事実が浮かび上がっています。

  • 1970年代から最近まで約5万人のスウェーデン人男性を追跡した研究の結果、青年期の知能検査のスコアが低い人は、後年自殺や自殺未遂のリスクが高くなり、また感情抑制の能力が低い人も同様のリスクが高い
  • 知能と感情制御、自殺行動の関係性を理解するため、82未満から126を超える範囲のIQの持ち主を感情制御の能力に応じて1~5のグループに分け、1973年から2008年の間に自殺と自殺未遂の状況を記録
  • 結果、最も知能が低い群は最も高い人々と比較し、自殺未遂あるいは自殺する確率が6倍も高いことを発見。更に感情的コントロールの能力が最も低い群も、最も高い群よりもリスクがほぼ7倍高い
  • しかしIQが低い群は、自殺との強い関連性は時間の経過とともに維持された一方で、感情のコントロール能が低い群は、年をとるにつれて自殺に対して自殺リスクが低下

そして、いずれの研究においても研究者は、自殺の原因をその知能指数の低さに求めてはおらず、知能指数の低さが招いた生活状況に求めています。

前者の研究では、自殺あるいは未遂率が高い原因を「社会経済的状態や収入が低いこと、ストレスの多い環境や衝撃的な出来事への対処能力が劣ること」を理由に挙げており、後者の研究では「知性は教育の成功と強く関連している。高い学歴がない場合、社会経済的地位が低くなったり、失業したりする可能性が高くなる」としています。

要すれば、IQが低かった結果社会的成功を収められなかった人は、自殺しか逃げ口がなかったということです。これはその人々個人の問題というよりも、自殺がその苦境から解脱する唯一の方法だった、という現代社会の問題点を明らかにしています。

【参考】

1. 「Psychosis alters association between IQ and future risk of attempted suicide: cohort study of 1 109 475 Swedish men」
(https://www.bmj.com/content/340/bmj.c2506)

2. 「Low intelligence linked to suicide risk later in life」(https://www.sciencedaily.com/releases/2019/10/191008212127.htm)