鶏が先か、卵が先かという議論はよく行われます。この議論は、生物学的には「鶏という種」は当然「鶏の卵(受精卵)」からしか発生できず、定義上「卵が先」ということに議論を帰結することが出来ます。一方、ことタバコに関しては「タバコを吸う奴がアホなのか、アホがタバコを吸うのか」という議論が終わりを見せることはないでしょう。
まずそもそも、「タバコを吸う人はアホなのか?」という命題があります。これに関しては、「タバコを吸っている人のIQは低いのか?」という命題に置き換えることが可能ならば、YESという結論が既に研究で明らかになっています。
テルアビブ大学の精神医学科のMark Weiser教授らによる研究では、非喫煙者のIQの平均がおよそ101だったのに対し、喫煙者の平均IQは94付近だったほか、喫煙者の中でも1日1箱以上タバコを吸う男性ではIQの平均は90付近と、ヘビースモーカーほどIQが低い傾向が見られるという結果が得られています。研究対象の母集団は、イスラエル軍に入隊した18歳~21歳の健康な男性2万人以上であり、その対象について入隊前・兵役中・除隊後のデータを獲得しています。なお、対象となった男性のうち1日1本以上のタバコを吸う喫煙者は約28%、3%は元喫煙者で、タバコを吸ったことがないという男性は68%でした。また補足するデータとして、調査対象の双子に関して、一方が喫煙者で他方が非喫煙者の場合には、非喫煙者の方がIQが高かったという結果も得られています。
また、愛知県大府市の国立長寿医療研究センターの調査結果では、「タバコを吸うと知能指数のIQは下がる」ということが指摘されています。 1997年から1999年にかけて愛知県の、40歳以上79歳以下の中高年者1824人のIQ調査をした結果、現喫煙者のIQの、平均値は102.5、非喫煙者は106.8、やめた人は107.9と、喫煙者は吸わない人よりもIQが低いという結果が得られているそうです。同研究を行った研究部長は「喫煙による酸欠で、一過性の脳障害が起きる。しかし禁煙すれば回復する」として、また別の関係者は「喫煙により脳萎縮が進行することはすでに確認されているがそれを裏付ける研究だ」としています。酸欠と脳委縮のダブルパンチがあり、前者は短期的には回復すると解釈できそうです。
しかし、上記の事実だけでは「喫煙が先」という結論は得られません。上記では「タバコを吸うとIQが下がる」ことは立証されましたが、「IQが低い人がタバコを吸う」ことを否定できないからです。
実際、前述のWeiser教授は「IQが低い人は、健康にかかわる判断をするとき、低い意思決定能力を示す傾向があります。IQが低い人々はタバコを含むさまざまな物への依存におちいりやすい」と述べており、「IQが低い人がタバコを好む」ことも肯定しています。これは一般の感覚とも比較的合致しているように見え、実際テレビドラマなどでは裏路地や社会的地位の低そうな人が集いそうな場面では小道具としてタバコが採用されることが多く、また既にIQの高低と経済格差には一定の相関があることが明らかになっています。
つまるところ、「タバコを吸うとIQが下がる」し、「IQが低いとタバコを吸う」ので、そもそもニワトリタマゴ問題とは全くフォーマットが違ったということです。なので、「どちらが先か」という問いには、永遠に答えが出ないのです。
【参考】
1. 「各種資料(神経疾患) | 日本禁煙推進医師歯科医師連盟」(http://www.nosmoke-med.org/ronbun_shinkeishikkan)
2. 「Smoking is dumb: Young men who smoke have lower IQs, study finds」(https://www.sciencedaily.com/releases/2010/04/100401151746.htm)